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ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その6

今回は、一般的な自律神経の考え方との比較から、ポリヴェーガル理論の特徴について簡単にまとめたいと思います。

 

まずは一般的な自律神経の考え方について簡単にまとめてみます。

交感神経副交感神経の2つに分けられる。

・交感神経が優位の時は副交感神経は抑制され、副交感神経が優位の時は交感神経が抑制される(拮抗支配)。

・交感神経と副交感神経が、シーソーのようにバランスを取り合っている。

・交感神経は活動時に働き、副交感神経は休息時に働く。

ストレスがあると交感神経が優位になり、リラックスすると副交感神経が優位になる。

ネットやメディア等で自律神経について説明しているのを見ると、おおよそ上記のようなものであるように思います。

このような見方はもちろん間違っているわけではなく、ある一面では正しいと言えるでしょう。

 

従来の考え方に比して、ポリヴェーガル理論では自律神経を次のようにとらえます。

腹側迷走神経交感神経背側迷走神経の3つに分けられる。(従来は2つ)

・3つの自律神経は古いものから新しいものへ、進化の過程で階層的に発達した。(従来にはない)

・腹側迷走神経が優位の時は交感神経と背側迷走神経は穏やかに働き、「健康・成長・回復」を促進する。(シーソーの関係だけではない)

・ストレスに対する防衛反応として、交感神経(可動化)と背側迷走神経(不動化)の2つがある。(従来は交感神経を強調)

・防衛反応として交感神経や背側迷走神経が働くときは、腹側迷走神経は抑制され、「健康・成長・回復」が妨げられる。(副交感神経の働きをより細分化)

 

ポリヴェーガル理論という自律神経の新しい見方により、従来とは異なった一面を持つ自律神経の働きが見えてきます。

「現代人は交感神経が優位になりがちだから、副交感神経を優位にするよう心がけましょう」という話をとてもよく見聞きします。決して間違いではありませんが、自律神経の不調は必ずしも交感神経によるものだけとは限りません。副交感神経の1つである背側迷走神経も、第2の防衛反応(不動化・シャットダウン)として存在するのです。

 

ポリヴェーガル理論を踏まえたうえで、自律神経の働きを整えるにはどうしたらよいのでしょうか。また私たちの「健康・成長・回復」を促進するためには何が必要なのでしょうか。

もうこれまでの説明でだいたい予想がつくかもしれませんが、それは

「腹側迷走神経を優位な状態に保つこと(戻すこと)」

と言うことができるでしょう。

 

(つづく)

 

参考文献

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著/春秋社)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著/春秋社)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著/春秋社)

・ポリヴェーガル理論 臨床応用大全(ステファン・W・ポージェス、デブ・デイナ編著/春秋社)

 

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その1

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その2

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その3

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その4

 

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ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その5

私たち哺乳類には、背側迷走神経交感神経腹側迷走神経という3つの自律神経が備わっていて、安全性や危険性のレベルに応じてそれぞれが複雑に活性化したり、または脱活性化したりしながら、その時点での最適な状態を作り出して生活しています。

では私たちはどのようにして安全性や危険性のレベルを評価し、自律神経系はどのようにして切り替わっていくのでしょうか。

 

ポリヴェーガル理論では、安全性や危険性のレベルの評価は無意識に行われ、その無意識による評価を合図として、それにふさわしい自律神経に自動的、反射的にスイッチが切り替わるとしています。

ポージェス博士はこの働きを「ニューロセプション」と名付けました。少し難しいのですが、ポリヴェーガル理論を理解するうえでとても重要な概念になります。

 

ニューロセプションは、周囲の環境(人間関係も含む)や身体内の環境(内臓の状態など)が安全なのか危険なのかを常に検知しています。その働きは無意識に行われるため通常気づきませんが、結果として身体に現れた反応には気づくことができます。

例えばニューロセプションが無意識のうちにある環境を「危険」と評価すると、それを合図に腹側迷走神経の働きは抑えられ、防衛反応として交感神経のスイッチが入って、胸がドキドキしたりソワソワしたり、身体が震えるといった身体反応に気づくかもしれません。

 

ニューロセプションの働きについて大事なことのひとつは、安全か危険かの評価は高次の脳による判断ではなく、大脳辺縁系や脳幹を含めた部位による、無意識的な身体レベルの反応であり、意志や性格は関係ないということです。

例えばある人がトラウマのような生命の危機に匹敵するショッキングな被害に直面した場合、闘うことも逃げることもできずにフリーズし、苦痛を感じにくくするために心と身体を解離させるといったシャットダウン反応を起こしたとしても、それは意図的なものではなく、ニューロセプションによる原始的で本能的な防衛反応で、その人にとって最低限自分を守るための、自律神経系による最適な選択と言えます。

この反応をその人の意志や性格の弱さ、行動力のなさとみなすのは誤りだということを、ポリヴェーガル理論は神経生理学の見地から説明しています。

 

もうひとつ大事なことは、ニューロセプションは、時に誤作動を起こすことがあるということです。

安全な環境にいるにもかかわらず防衛反応が活性化してしまったり、反対に危険な環境にいるにもかかわらず防衛反応が活性化しなかったりすることがあり得ます。

ニューロセプションおよび自律神経系の反応パターンは、人がどんな体験をしたか、その体験の内容によって形成される面があり、人それぞれ一様ではありません。ある状況を「安全」と評価する人もいれば、「非常に危険」と評価する人もいます。

例えばトラウマを抱えた人やパニック発作を体験した人などは、現在は安全であるにもかかわらず「危険」の合図を出し、常に過覚醒の状態でいることがあります。

防衛システムのスイッチが入って「闘争/逃走」反応を起こす、という部分は間違っていないのですが、「安全」か「危険」かを評価する時点での誤作動が起きてしまうのです。

もちろんこのニューロセプションの誤作動も無意識の働きによるものであり、安全であるのにそれに見合った行動ができないことに対して、甘えているとか精神力が弱いなどと解釈することが誤りであるのは言うまでもありません。

 

 

次回は、従来の自律神経のとらえ方とポリヴェーガル理論における自律神経のとらえ方の違いを簡単におさらいしたいと思います。

 

(つづく)

 

参考文献

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著/春秋社)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著/春秋社)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著/春秋社)

・ポリヴェーガル理論 臨床応用大全(ステファン・W・ポージェス、デブ・デイナ編著/春秋社)

 

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その1

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その2

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その3

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その4

 

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ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その4

私たち哺乳類には、太古の脊椎動物から進化の過程で発達を遂げた背側迷走神経交感神経腹側迷走神経という3つの自律神経が備わっていることを、前回までみてきました。

 

では、人間が困難に直面した時、これらの自律神経はどのように働くのでしょうか。

ポリヴェーガル理論では、進化の順番とは逆向きに、新しい神経回路から順にヒエラルキーに沿って対応していくと考えます。

 

人間は本来、最も新しい腹側迷走神経を活性化させ、安全な環境を作り上げて生きようとします。腹側迷走神経が活性化しているとき、交感神経と背側迷走神経の働きは最適な状態に保たれ、安全の中で活動と休息を促し、「健康」「成長」「回復」の機能を支持します。

困難な出来事に直面した時も、まず腹側迷走神経が発動し、社会交流システムの中でお互いがつながろうとします。言葉や表情を用いてコミュニケーションを取り、互いの立場を思いやりながら助け合ったり励まし合ったりして困難な状況を乗り越え、安全を確保しようとします。

 

このような対応によっても問題が解決せず、より危険な状況が迫った時、腹側迷走神経の働きは抑制され、防衛反応としての交感神経が活性化します。

思いやりや共感、つながりといったシステムが崩れ始め、「闘争/逃走」反応が発動することによって、危険な状態から身を守り、安全を確保しようとします。周囲を警戒するため感覚が過敏になり、また本来敵を追いかけたり敵から逃げ回ったりという「可動化」のための神経なので、心臓の拍動は強く速くなり、血圧は上昇し、呼吸は浅く速くなり、多くのエネルギーを消費します。

人間の社会では、実際にダッシュして追いかけたり逃げ回ったりするような危険は日常的には多くはなく(最近はそうも言えないニュースが増えてきましたが)、むしろ、職場などにおける様々なハラスメントといった、人間関係に起因した危険が多いと言えるかもしれません。

そのような危険の場合、身体は本能として「可動化」のための反応を起こすのに、実際は身体を動かさずそこに留まるという矛盾した状態が生まれることがあります。そしてその状態が、わりと長時間にわたって続くこともあります。すると身体的、精神的緊張が高まったまま維持され(「高止まり」「過覚醒」と言ったりもします)、多くのエネルギーを消耗します。

 

直面する危険があまりに強大なものであったり、あるいは危険な状況があまりにも突然に迫ってきたりして、交感神経による「闘争/逃走」反応では身を守ることができないとき、周囲とのつながりは更に絶たれ、最も古い自律神経である背側迷走神経が活性化して、「シャットダウン」「凍りつき」の反応が起こります。「不動化」(動かない、動けない)によって、エネルギー消費を必要最小限にすることで身を守ろうとします(「低止まり」「低覚醒」)。

そのため、表情に乏しく、感覚の鈍麻、意欲の低下、だるさ、身体に力が入らない、などといった状態になり、ひどい時には失神したり失禁したりすることもあります。強制的にシャットダウンしてまでも身を守ろうとする太古の動物の反応が、私たち人間にも備わっています。

実際に失神するケースは日常的に多くはないかもしれませんが、職場や学校など社会に大きな危険を感じた場合に、その社会から身を守るためにシャットダウン反応を起こすケースは多いと言えるかもしれません。

 

交感神経が頻繁に活性化した状態(高止まり、過覚醒)も、背側迷走神経が頻繁に活性化した状態(低止まり、低覚醒)も、どちらも危険から身を守り、生き延びるための防衛反応です。高止まりが続く人もいれば、低止まりが続く人もいます。また、高止まりと低止まりが入り混じって乱高下する人もいます。

いずれにしても、危険を感じているときは安全な環境下にいないため、「健康」「成長」「回復」を促進することができません

 

次回は、これらの自律神経の切り替えがどのように行われるのかについて解説していきたいと思います。

 

(つづく)

 

参考文献

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著/春秋社)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著/春秋社)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著/春秋社)

 

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その1

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その2

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その3

 

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ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その3

今回は、3つの自律神経のうち、最も新しい腹側迷走神経についてもう少し詳しくみていきたいと思います。

 

腹側迷走神経は、爬虫類から哺乳類へと進化する過程で発達した、哺乳類に特有の自律神経です。哺乳類以前に発達した背側迷走神経交感神経は、危険が迫った時の防衛反応として発達した自律神経でしたが、腹側迷走神経は、むしろ防衛反応のスイッチが切られ、安全な環境下で活性化する自律神経です。

 

私たち哺乳類は、生まれながらに社会的な存在であり、他者と相互に関係を持つことを求められます。

哺乳類は、生まれるとすぐに親の世話を受ける必要があります。また、子育てや食事、睡眠などは、孤立しない安全な環境を必要とします。そのためには、親子、家族、仲間といった社会の中で相互につながる必要があります。生存のために必要な他者とのつながりの中で、安全を感じ、愛情や信頼、共感、安心感が生まれると、腹側迷走神経が活性化します。

ポリヴェーガル理論では、腹側迷走神経は「安全である」と感じられたときにのみ活性化し、「健康」「成長」「回復」を促す働きをするとしています。

またポリヴェーガル理論では、「安全である」と感じられるためには、協働調整が必須であると論じています。協働調整とは、お互いに安全であるという合図を出し、心地よくかかわり合いながら、心身の状態を最適な状態へ導いていくことを言います。

 

腹側迷走神経は、心臓や気管支などの働きをコントロールしていますが、顔面の筋肉や声を出す筋肉、聴覚にかかわる筋肉などをコントロールする神経ともネットワークを作り、表情や声の抑揚などを駆使して、互いに安全であることを確認し合っています。

ポリヴェーガル理論では、この仕組みのことを「社会交流システム」と呼び、哺乳類の中でもヒトはこのシステムが高度に発達しています。

 

ポリヴェーガル理論によれば、ヒトを含め哺乳類は、安全であることを求め、腹側迷走神経を活性化しないではいられない生物と言えます。

そのために、互いに表情や声を使って愛情を伝え合い、つながりを持ち、絆を深めようとします。それは決して教育的、道徳的に求められるのではなく、進化の過程で私たち哺乳類にプログラミングされた、生物学的、生理学的な反応なのです。

 

今回のまとめ

腹側迷走神経は、協働調整や社会交流システムによって安全を感じたときにのみ活性化し、健康、成長、回復を促進させる働きを持つ

 

次回は、人間がストレスを感じた時、自律神経の働きがどのように変化していくかを見ていきたいと思います。

 

(つづく)

 

参考文献

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著/春秋社)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著/春秋社)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著/春秋社)

 

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その1

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その2

 

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ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その2

自律神経は、意思の力では直接的にコントロールできない神経です。そのため、自律神経の働きを整えるためには、理性でなく本能的な視点生物学的な視点が必要になります。

今回は、生体の防衛システムである3つの自律神経がどのように発達していったか、進化の過程からみていきたいと思います。

 

まず一番最初に発達した防衛システムは、背側迷走神経です。

背側迷走神経は、哺乳類が誕生するよりもはるか昔の、太古の脊椎動物において発達しました。

背側迷走神経による防衛反応は、「不動状態」「シャットダウン」です。

危険が迫った時、できるだけじっとして動かず、代謝を落とし、酸素を使わず、時には死んだふりをして、危険が過ぎ去るのを待ちます。

彼らの天敵は、動くものを捕食する習性があるため、「できるだけ動かないこと」、「死んだふりをすること」が、生き延びるための防衛反応だったのです。

 

その後、一部の魚類において交感神経が発達しました。

交感神経による防衛反応は、「可動状態」「闘争/逃走」です。

危険が迫った時、戦うか逃げるか、いずれにせよ、酸素量を増やし代謝を上げてできるだけ素早く動くことで身を守ろうとする反応です。この発達した交感神経は、より古い背側迷走神経と拮抗した働きをするようになりました。

 

そして、一番新しく発達したのが、腹側迷走神経です。

腹側迷走神経は、これまでの2つの自律神経とは異なり、危機に直面したときに身を守る防衛システムではありません。いわば危機にならない状態を維持することによって身を守る、哺乳類に特有のシステムであり、その反応は

「安全」「つながり」「絆」です。ポージェス博士はこのシステムを「社会交流システム」と呼んでいます。

腹側迷走神経は、お互いにコミュニケーションを取り合い、共感し合い、優しさや愛情を伝え合って、お互いが仲間であり安全な存在であることを確認するときに働く神経です。腹側迷走神経が活性化しているとき、他の2つの自律神経は落ち着き、穏やかに働きます。

 

腹側迷走神経によって作られる社会交流システムは、ポリヴェーガル理論の主要な要素の一つであり、自律神経を整える際の大きなヒントになりますので、また次回に詳しく解説していきたいと思います。

(つづく)

 

参考文献

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著/春秋社)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著/春秋社)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著/春秋社)

 

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その1

 

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ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その1

ポリヴェーガル理論の具体的な内容に入る前に、今回はその成り立ちを簡単に解説したいと思います。

 

ポリヴェーガル理論は、1994年にアメリカのS・W・ポージェス博士によって提唱されました。

「ポリ」は「複数の」、「ヴェーガル」は「迷走神経」を表します。つまり「ポリヴェーガル」は「複数の迷走神経」という意味になります。

迷走神経というのは何だかヘンテコな名前ですが、自律神経のうち最大の副交感神経で、頚、胸、腹部の内臓などに広く分布して、それらの機能をコントロールするとても重要な神経です。

 

ポージェス博士は、新生児における心拍のリズムと迷走神経の関係を研究する過程で、迷走神経の活動が新生児にとって保護的に働く一方、ときに心拍数の極端な低下や無呼吸など、新生児の生命を危険にさらすこともあるという矛盾に気づきました。

この「迷走神経の矛盾した働き」について研究を進めた結果、

・矛盾する現象が、異なる2つの迷走神経回路腹側迷走神経背側迷走神経)の働きによるものであること

・2つの迷走神経と交感神経は、動物が進化の過程で、生存のために段階的に発達を遂げた防衛システムであること

をポージェス博士は明らかにし、これを基礎としてポリヴェーガル理論が生まれたのです。

 

次回以降は、それぞれの自律神経について、進化の過程から見ていきましょう。進化の過程から自律神経を考えると、本来の働きが分かりやすく、とても興味深いですよ!

(つづく)

 

参考文献

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著/春秋社)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著/春秋社)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著/春秋社)

・分冊解剖学アトラスⅢ(長島聖司・岩堀修明訳/文光堂)

・解剖学(岸清・石塚寛編/医歯薬出版)

 

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

 

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ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

「新しい」といっても、この理論が提唱されたのは1994年なので、かれこれ30年近く経過しています。

しかし、日本ではあまり知られていませんので、そういう意味では新しいといってもいいのではないかと思います。

 

ざっくりと言うと、ポリヴェーガル理論とは「自律神経」についての理論です。

従来「交感神経」と「副交感神経」の2つに分けられていた自律神経のうち、副交感神経をさらに2種類に分け、

交感神経

腹側迷走神経(副交感神経)

背側迷走神経(副交感神経)

の3つに分けて自律神経の働きを説明しているところが大きな特徴です。

 

名称がいきなり難しげですが、とっても興味深い理論で、私が施術をする際にも非常に役に立っています。

 

ポリヴェーガル理論を知ると・・・

・自律神経についての理解がより深まります。

・自分自身をいたわる気持ちがより強まります。

・不調の原因と、回復のために何を目指せばよいかがより分かりやすくなります。

 

「交感神経と副交感神経のバランスが大事」

という文言はネットやメディアでよく見聞きしますが、それにとどまらず、ヒトとして健康的に生きるには何が大切なのかということを、ポリヴェーガル理論は教えてくれます。

 

いっぺんにお伝えしようとするとかえってポイントが絞れなくなるため、これから何回かに分けて少しずつ、できるだけ簡潔に分かりやすく、ChatGPTに負けないように解説していきたいと思います。

(つづく)

 

参考文献(いずれも春秋社)

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著)

 

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ぎらぎらとした8月の太陽の光が、空や雲や木々をいっそう色濃く映し出しながら、私たちに有り余るほどのエネルギーを注いでいます。

 

そうしたエネルギーを五感で受け止めながら、ふと宮沢賢治の童話集『注文の多い料理店』の序文を思い出しました。

 

「わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。」

 

「人間も自然界の一部であり、自然の中に生かされている存在である」と、もし肌で感じることができるなら、身に訪れる好ましくない変化に対しても、少しだけ寛容になれるのかもしれません。

 

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「疲れにくい脳」にするために

鍼灸の刺激が脳疲労を回復し、その結果として身体症状の軽減に貢献する仕組みは前回の通りですが、中には鍼灸だけでは回復しきれないケースもあります。

 

「施術した後はいいんだけど、しばらくするとまた戻ってしまう」といったケースです。

 

こういう場合は、いろいろな要因が考えられますが、一つには「ストレス源が強すぎる、あるいは慢性化している」ことが挙げられます。

鍼灸の刺激で一時的に良くなっても(一時的にでもリセットすることはとても大事なことなんですが)、日常生活の中でまたストレスを受けて疲れてしまうのです。

 

このように、鍼灸が脳疲労に対して対症療法的には有効だけれども、「疲労を取るだけでなく、そもそも疲れにくい脳にしたい」「根本から変えていきたい」という場合は、ストレスに対していつも同じように反応しているパターンを変えていく必要があります。

 

その方法として私がオススメするのが「瞑想」です。

 

瞑想というと、怪しげな精神世界?宗教?とイメージされる方も多いかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。

 

私は4年間「マインドフルネス瞑想」を実践していますが、その経験から個人的な感想を言いますと、まず瞑想というのは

「今ここに存在しているものをありありと感じること」

であるということ、そして

「頭で理解するのでなく体感する、極めて身体的な実践」

であり、また

「特定の宗教のものではなく、むしろ心身の健康法としてあらゆる人に開かれたもの」

だととらえています。

 

生活の中で「今ここに存在している」ことを体感する習慣が身につくと、ネガティブな思考パターンにはまっていることに早く気づいてリセットし、脳のエネルギーの消耗を抑えることができるようになります。さらにはネガティブな思考自体が少なくなり、まさに「疲れにくい脳」「ストレスに強い脳」に変わっていくわけです。

 

マインドフルネスの効果はこれにとどまらず、慢性疼痛や自律神経系などの身体症状に対する効果も報告されているので、またの機会にお話しできればと思います。

 

鍼灸とマインドフルネスは「身体感覚」「身体脳」という点で親和性が高く、両者を併用することで、脳疲労に対して相乗的な改善が望めるのではないかと考えています。

 

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脳疲労と鍼灸

(前回からの続き)

 

では、どうしたら脳の疲労を回復させることができるでしょうか。

方法はいろいろあるかと思いますが、今回は鍼灸師として、鍼やお灸の刺激が脳疲労の回復にどのように貢献できるか、少しお話ししたいと思います。

 

身体に鍼やお灸をすると、その刺激が感覚神経を伝わって脳に届きます。すると、脳はその刺激に対して、脳内で様々な反応を起こします。

 

その一つは自律神経です。鍼灸によるある種の刺激は、視床下部を中枢とする自律神経のうち副交感神経の活動を高め、心身をリラックスモードに導きます。

その他には、神経伝達物質の生成です。鍼によるある種の刺激によって作られる神経伝達物質はいくつかありますが、例えばβエンドルフィンという物質は、鎮痛作用のほか、脳内の緊張を和らげ、「気持ち良い」感覚を与える作用があります。

 

またセロトニンという物質には、脳の働きを調整する役割があり、精神的な落ち着きや安心感が得られると言われています。

 

さらに、鍼刺激によって視床下部でオキシトシン細胞が増えるという研究報告もあります。オキシトシンは近年注目されている物質で「幸せホルモン」とも呼ばれ、ストレスを和らげ、安心感、幸福感、信頼感を高めるはたらきがあると言われています。

 

このように、施術によって脳内にポジティブな物質を増やすことで、反芻思考のようなネガティブな思考のループをリセットさせることができます。施術後によく患者さんが「頭の中がスッキリした!」とおっしゃることがありますが、これは施術によって脳内に上記のような物質が増えたことで、脳の疲労感が取れたのです。

 

考えごとが止まらない時、頭の中が過去や未来を行ったり来たりの時、それをまた頭の中で、意識レベルでどうにか現在に戻そうとしても、なかなか上手くいかないでしょう。

そんな時は、身体にアプローチする。意識下ではなく無意識下のレベルで、身体の反応にお任せしたほうが上手くいくこともあるのです。

鍼灸はまさに、

身体(刺激)→脳(疲労の回復)→身体(症状の改善)

というアプローチを可能にする施術であると言えるでしょう。

(まだつづく?)

 

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