Category: 心療鍼灸

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その1

ポリヴェーガル理論の具体的な内容に入る前に、今回はその成り立ちを簡単に解説したいと思います。

 

ポリヴェーガル理論は、1994年にアメリカのS・W・ポージェス博士によって提唱されました。

「ポリ」は「複数の」、「ヴェーガル」は「迷走神経」を表します。つまり「ポリヴェーガル」は「複数の迷走神経」という意味になります。

迷走神経というのは何だかヘンテコな名前ですが、自律神経のうち最大の副交感神経で、頚、胸、腹部の内臓などに広く分布して、それらの機能をコントロールするとても重要な神経です。

 

ポージェス博士は、新生児における心拍のリズムと迷走神経の関係を研究する過程で、迷走神経の活動が新生児にとって保護的に働く一方、ときに心拍数の極端な低下や無呼吸など、新生児の生命を危険にさらすこともあるという矛盾に気づきました。

この「迷走神経の矛盾した働き」について研究を進めた結果、

・矛盾する現象が、異なる2つの迷走神経回路腹側迷走神経背側迷走神経)の働きによるものであること

・2つの迷走神経と交感神経は、動物が進化の過程で、生存のために段階的に発達を遂げた防衛システムであること

をポージェス博士は明らかにし、これを基礎としてポリヴェーガル理論が生まれたのです。

 

次回以降は、それぞれの自律神経について、進化の過程から見ていきましょう。進化の過程から自律神経を考えると、本来の働きが分かりやすく、とても興味深いですよ!

(つづく)

 

参考文献

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著/春秋社)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著/春秋社)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著/春秋社)

・分冊解剖学アトラスⅢ(長島聖司・岩堀修明訳/文光堂)

・解剖学(岸清・石塚寛編/医歯薬出版)

 

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

 

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ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

「新しい」といっても、この理論が提唱されたのは1994年なので、かれこれ30年近く経過しています。

しかし、日本ではあまり知られていませんので、そういう意味では新しいといってもいいのではないかと思います。

 

ざっくりと言うと、ポリヴェーガル理論とは「自律神経」についての理論です。

従来「交感神経」と「副交感神経」の2つに分けられていた自律神経のうち、副交感神経をさらに2種類に分け、

交感神経

腹側迷走神経(副交感神経)

背側迷走神経(副交感神経)

の3つに分けて自律神経の働きを説明しているところが大きな特徴です。

 

名称がいきなり難しげですが、とっても興味深い理論で、私が施術をする際にも非常に役に立っています。

 

ポリヴェーガル理論を知ると・・・

・自律神経についての理解がより深まります。

・自分自身をいたわる気持ちがより強まります。

・不調の原因と、回復のために何を目指せばよいかがより分かりやすくなります。

 

「交感神経と副交感神経のバランスが大事」

という文言はネットやメディアでよく見聞きしますが、それにとどまらず、ヒトとして健康的に生きるには何が大切なのかということを、ポリヴェーガル理論は教えてくれます。

 

いっぺんにお伝えしようとするとかえってポイントが絞れなくなるため、これから何回かに分けて少しずつ、できるだけ簡潔に分かりやすく、ChatGPTに負けないように解説していきたいと思います。

(つづく)

 

参考文献(いずれも春秋社)

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著)

 

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メニュー改定のお知らせ

現在の治療メニューのうち、

「トータルケアコース」を以下のように改定させていただきます。

 

心身ストレスケア・リラクゼーション療法(7090)

7,000

(2回目以降は、2週間以内に再来院の場合は5,600円、1ヶ月以内の場合は6,300円になります)

 

鍼灸やマッサージによるツボ刺激をベースに、ケースに応じてリラクゼーション法や心理技法なども組み合わせながら「心身相関システム」にアプローチします。

以下の3項目に当てはまる方・強いストレス環境にある方・脳疲労を改善したい方などに向けたコースです。

 

心療・メンタルケア

(抑うつ・不安障害・パニック障害・摂食障害などの他、対人関係やライフサイクルに伴うストレスなど)

自律神経・心身症ケア

(頭痛・不眠・起立性調節障害・めまい・耳鳴・喉の詰まり・息苦しさ・動悸・胃腸のトラブル・PMS・更年期障害など)

慢性疼痛・慢性疲労ケア

(身体症状症・線維筋痛症・慢性疲労症候群などの他、原因のはっきりしない痛みやしびれなど)

 

 

近日中に、ホームページにもアップします。どうぞよろしくお願いいたします。

 

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新型コロナウィルス感染防止のための取り組み

コロナ禍の鍼灸(師)

遠く丹沢の山並みに紅葉が広がり、富士山の頂から裾にかけて降りたての薄い雪が光っています。その手前には一本のイチョウの木が朝の日光を浴びて黄金色に輝き、透きとおった冷たい風は一面の青空に雲を白く薄くたなびかせ、竹林の明るい緑の葉を細かく揺すっています。

 

あるがごとくにある12月の自然の風景の下で、私たち人間の世界はまだまだコロナウィルスに苦しんでいます。

 

一年近く続いている、安心安全が脅かされ先が見通せない日常、感染してもさせてもいけないという緊張、気分転換もなかなかできずに溜まっていくストレス、これらが自覚的にも無自覚的にも、ボディブローのようにじわじわとダメージを蓄積させてきています。

 

このような困難な状況の中で、それでも頑張っている人たちに対して、私ができることは一体何だろう?と考えます。

 

鍼灸と免疫の関係についてお話ししますと、鍼や灸の刺激は自律神経系を介して免疫系にも作用し、リンパ球であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)T細胞の数を増加させるという研究報告があります。「鍼灸は免疫力を高める」と言われる科学的なゆえんです。

 

しかし、だからといって鍼灸を受ければ感染しないとか、感染しても重症化を防げるとか、そういうことではなく、個人レベルの感染症対策としてはこれまでも、そしてこれからも、「手洗い、消毒、マスク、換気、3密を避ける」が何よりも大事であることは言うまでもありません。

 

鍼灸は、外敵を攻撃するものではなく、身体に備わっている機能をより発揮できるよう内的環境を整えることに優れた療法ですので、コロナに対しては、「規則正しい生活、睡眠、栄養」と同じ枠組みで、養生の一つとして受けていただくのが良いと思います。

 

私自身は、「心身の安全基地」としての役割を大事にしたいと思っています。

 

それは、私の治療室が感染症対策をしているとか、3密ではないとか、そういった意味での安全だけではありません。(もちろんこれも大事なことではあります)

 

人はみな自分の内面に、他の誰にも、何にも邪魔されない「自分だけの静寂の時間、静寂の場所」を持っています。それは冒頭で見た自然の風景と同じように、あるがごとくにある、「存在」という名の静寂です。

 

荒波(コロナ禍)にもまれていると、その渦中の世界がすべてだと思ってしまいがちです。

しかし、そんな状況においても心の奥底に静寂は必ずあって、いつでもそこに立ち戻ることができます。そのことに気づきさえすればよいのです。そこにはいつも穏やかさと安らぎがあります。

 

この苦しい時期に、鍼灸を通して、張り詰めて緊張した心と身体を緩めながら、ほんのひととき静寂の世界を感じ取っていただけるような、そんな安心感に包まれた空間を作りたいと思っています。

 

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「疲れにくい脳」にするために

鍼灸の刺激が脳疲労を回復し、その結果として身体症状の軽減に貢献する仕組みは前回の通りですが、中には鍼灸だけでは回復しきれないケースもあります。

 

「施術した後はいいんだけど、しばらくするとまた戻ってしまう」といったケースです。

 

こういう場合は、いろいろな要因が考えられますが、一つには「ストレス源が強すぎる、あるいは慢性化している」ことが挙げられます。

鍼灸の刺激で一時的に良くなっても(一時的にでもリセットすることはとても大事なことなんですが)、日常生活の中でまたストレスを受けて疲れてしまうのです。

 

このように、鍼灸が脳疲労に対して対症療法的には有効だけれども、「疲労を取るだけでなく、そもそも疲れにくい脳にしたい」「根本から変えていきたい」という場合は、ストレスに対していつも同じように反応しているパターンを変えていく必要があります。

 

その方法として私がオススメするのが「瞑想」です。

 

瞑想というと、怪しげな精神世界?宗教?とイメージされる方も多いかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。

 

私は4年間「マインドフルネス瞑想」を実践していますが、その経験から個人的な感想を言いますと、まず瞑想というのは

「今ここに存在しているものをありありと感じること」

であるということ、そして

「頭で理解するのでなく体感する、極めて身体的な実践」

であり、また

「特定の宗教のものではなく、むしろ心身の健康法としてあらゆる人に開かれたもの」

だととらえています。

 

生活の中で「今ここに存在している」ことを体感する習慣が身につくと、ネガティブな思考パターンにはまっていることに早く気づいてリセットし、脳のエネルギーの消耗を抑えることができるようになります。さらにはネガティブな思考自体が少なくなり、まさに「疲れにくい脳」「ストレスに強い脳」に変わっていくわけです。

 

マインドフルネスの効果はこれにとどまらず、慢性疼痛や自律神経系などの身体症状に対する効果も報告されているので、またの機会にお話しできればと思います。

 

鍼灸とマインドフルネスは「身体感覚」「身体脳」という点で親和性が高く、両者を併用することで、脳疲労に対して相乗的な改善が望めるのではないかと考えています。

 

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脳疲労と鍼灸

(前回からの続き)

 

では、どうしたら脳の疲労を回復させることができるでしょうか。

方法はいろいろあるかと思いますが、今回は鍼灸師として、鍼やお灸の刺激が脳疲労の回復にどのように貢献できるか、少しお話ししたいと思います。

 

身体に鍼やお灸をすると、その刺激が感覚神経を伝わって脳に届きます。すると、脳はその刺激に対して、脳内で様々な反応を起こします。

 

その一つは自律神経です。鍼灸によるある種の刺激は、視床下部を中枢とする自律神経のうち副交感神経の活動を高め、心身をリラックスモードに導きます。

その他には、神経伝達物質の生成です。鍼によるある種の刺激によって作られる神経伝達物質はいくつかありますが、例えばβエンドルフィンという物質は、鎮痛作用のほか、脳内の緊張を和らげ、「気持ち良い」感覚を与える作用があります。

 

またセロトニンという物質には、脳の働きを調整する役割があり、精神的な落ち着きや安心感が得られると言われています。

 

さらに、鍼刺激によって視床下部でオキシトシン細胞が増えるという研究報告もあります。オキシトシンは近年注目されている物質で「幸せホルモン」とも呼ばれ、ストレスを和らげ、安心感、幸福感、信頼感を高めるはたらきがあると言われています。

 

このように、施術によって脳内にポジティブな物質を増やすことで、反芻思考のようなネガティブな思考のループをリセットさせることができます。施術後によく患者さんが「頭の中がスッキリした!」とおっしゃることがありますが、これは施術によって脳内に上記のような物質が増えたことで、脳の疲労感が取れたのです。

 

考えごとが止まらない時、頭の中が過去や未来を行ったり来たりの時、それをまた頭の中で、意識レベルでどうにか現在に戻そうとしても、なかなか上手くいかないでしょう。

そんな時は、身体にアプローチする。意識下ではなく無意識下のレベルで、身体の反応にお任せしたほうが上手くいくこともあるのです。

鍼灸はまさに、

身体(刺激)→脳(疲労の回復)→身体(症状の改善)

というアプローチを可能にする施術であると言えるでしょう。

(まだつづく?)

 

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「脳」が疲れていませんか?

休んでいるつもりなのに疲れが取れない、なんだかだるくてしょうがない、こんなことはありませんか?
心当たりのある方、もしかしたらそれは「脳の疲れ」から来ているかもしれません。
脳はあらゆる感覚の終着駅。厄介なのは単純な肉体の疲労よりもむしろ、「疲労感」なのかもしれません。

脳を疲れさせる要因の一つに「考えごとの堂々巡り」があります。
何かをしている時、気づくと全然違うことを考えていること、つまり「心ここにあらず」の状態になっていることはありませんか?
心配、不安、後悔、怒りなど、未来や過去のことについてのネガティブな考えが堂々巡りすることを「反すう思考」と言い、脳をどんどん疲弊させていきます。

脳の疲弊は心だけでなく、身体にもダメージを与えます。
例えば、頭痛、耳鳴り、めまい、首肩こり、腰痛、身体全体の痛みやだるさ、喉のつかえ、呼吸のしづらさ、動悸、胃もたれ、下痢、便秘、冷え、のぼせなどの症状も、医療機関の検査で特に原因が見当たらなければ、脳疲労が関与しているかもしれません。

その場合、これらの身体症状を改善させるには、「脳の疲れを取ること」、つまり「脳へのアプローチ」が必要になってきます。

(つづく)

 

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喪の作業②

喪の作業は必ずしも「大切な人の死」という体験の時だけに行われるものではありません。

 

例えば、

・災害等による住居や財産の喪失

・病気や加齢による、健康で若々しい理想の自分像の喪失

・引っ越しや転勤など、それまで住み慣れた環境の喪失

・進学や就職、結婚など、それまで帰属していた集団や家族の喪失

 

これらも一種の対象喪失であり、もちろんその喪失感に強弱はありますが、喪の作業が行われることになります。

 

こうしてみると、人は幼少期から老年期まで、そのライフサイクルにおいて、心や身体、取り巻く環境に変化が起きるたびに喪の作業を繰り返しているといえます。

別の見方をするなら、人は喪の作業を繰り返すたびに自分自身や周囲との関係を再構築し、新たな目標を見つけて成長していくものといえるかもしれません。

 

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喪の作業 〜ある男性のケース〜

愛する人や、とても大事にしていたものを失ったとき、人は悲しみなど様々な感情を経験しながら、徐々にそのショックから立ち直っていきます。

 

その過程を「喪の作業」といいますが、その過程において身体症状を呈することは、決して珍しいことではありません。

それは、めまいやふらつき、耳鳴りのようなものかもしれませんし、身体の痛みかもしれません。もちろん、身体症状が現れない場合もあります。

 

ずいぶん前になりますが、ある男性が長年連れ添った奥様を亡くされた後、3ヶ月ほどして全身に痛みが現れ始め、それから半年近くもの間、夜も眠れぬほどの痛みで耐えがたいので何とかして欲しいとの依頼がありました。

当然のことながらすでに医療機関を受診し、精密検査等は行っているとのことでお引き受けし、問診の際の訴えの内容や訴えるときの様子から、これは喪の作業による種々の感情が身体化したものだという見立てをしました。

 

喪の作業による身体(化)症状の場合、大事なことは、症状を取ることにとらわれないことです。それよりももっと大事なことがあるからです。

 

さっそく「症状を取ることにとらわれない鍼灸治療」を週1回のペースで始めたところ、ほどなくして「眠れないほどの痛み」が軽減していきました。

さらに続けていくと、痛みの部分が全身から部分に限局されていき、

「まだ痛むには痛むが、動かさないでいると筋肉が弱ってしまう」という言葉が出始め、

治療を始めて3ヶ月がたった頃、施術中に男性が、

「妻と生前、一緒に利用しようと話していたデイサービスに見学に行ってみようかな」と話し始めました。

 

私はこの発言を聞いて、男性の喪の作業がひと山越えたと判断し、治療を終了することに決めました。

男性は、奥様と良い意味での分離が進み、たとえ一緒でなくても、デイサービスに行ってみようという気持ちが芽生えるようになったのです。

 

喪の作業において現れた身体症状の場合、大事なことは、その症状を受容することです。

患者さんはもちろん受容する余裕などありませんから、施術者側にまずその姿勢が求められます。

この男性にとって、眠れないほどの全身の痛みは、喪の作業を進めるうえで出るべくして出たものです。もっと穏やかに進められればよかったのでしょうが、それだけ大きな出来事だったともいえるでしょう。

 

それを理解しようとすることなしに、とにかく取ってしまおうというのは、悲嘆にくれて泣いている人に向かって、他人事として「泣くな」と言っているようなもので、喪の作業をよけいにこじらせ、長引かせることになります。

喪の作業が進めば自ずと症状は治まっていくわけですから(そう簡単に進まないことも多々ありますが!)、そのためにあえて受容するのです。

 

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